成人科ではあまり使用機会はありませんが, すでに多剤ASM服薬患者で, ミダゾラム抵抗性の場合は選択肢となりうる薬剤です.
低血圧, 不整脈, 呼吸抑制に注意が必要ですが, 忍容性や抗発作効果は高いようです.
半減期は非常に長い薬剤です.
日本神経学会てんかんガイドライン2018ではセカンドラインに含まれています.

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/epgl/tenkan_2018_08.pdf
Phenobarbital in Status epilepticus – Rediscovery of an effective drug. Epilepsy Behav. 2023
フェノバルビタール (ノーベルバール)
低血圧, 不整脈, 呼吸抑制の報告があり, ヨーロッパの多くの国で好まれなくなっている.
鎮静作用は少なく, てんかん重積状態においてはロラゼパムと同等かそれ以上の効果がある
ベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態ではバルプロ酸よりも大幅に優れている
フェノバルビタールは, 高用量のプロトコルで使用しても忍容性が良好であることが示唆されている.

bioavailability: 静脈内投与 100%
単回投与後のピーク到達時間: 静脈内 12~60分
消失半減期(時間):
新生児 43~217h
乳児(1~12か月):63.2 ± 4.2h
子供: 37~198h
成人: 75~126h

てんかん重積状態における通常の投与量:
100 mg/分の速度で10~20 mg/kg(成人の通常投与量は600~800 mg)
その後, 成人では1~4 mg/kg, 小児および新生児では3~4 mg/kgの維持量
急性期において重要な薬物間相互作用はない
長期使用(数日以上)は, 酵素誘導により併用薬の血中濃度が低下する可能性がある(例:DOAC, その他ASM)
目標血中濃度: 10~40μg/mL
集中治療室での高用量治療では, 血中濃度が60μg/mLを超える可能性がある
70μg/mLを超えると, ほぼ確実に重度の鎮静状態を引き起こす

一般的な副作用: 鎮静, 呼吸抑制, 低血圧
主な利点: てんかん重積状態のけいれんに対して非常に効果的, 迅速かつ長期的な効果, 使いやすい
主な欠点: 高用量では中枢神経抑制作用(呼吸抑制, 低血圧, 鎮静)
禁忌: 急性間欠性ポルフィリン症
高齢者や肝硬変患者: クリアランスが低下する可能性がある
フェノバルビタールと併用薬(DOACや他の抗てんかん薬など)の血中濃度のモニタリングを推奨

ベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態における5つの研究の有効性結果
赤で強調表示されているのは, フェノバルビタールを含む比較
メタアナリシスでは, フェノバルビタールはてんかん重積状態停止に関して, フェニトイン, バルプロ酸, ジアゼパム, レベチラセタム, ラコサミドよりも優れた.
24時間後の発作消失の達成においてもバルプロ酸, ジアゼパム, ラコサミドよりも優れた
フェノバルビタールではバルプロ酸 (OR: 7.07, 95% CI: 2.52–19.86) と比較して, 24時間後のてんかん重積状態停止 (OR: 5.36, 95% CI: 1.87–15.36, p=0.002) および発作消失の割合が高かった.

ベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態における5つの研究の安全性結果
青で強調表示されているのはフェノバルビタールを含む比較
DZP: ジアゼパム, LCM: ラコサミド, LEV: レベチラセタム, PHB: フェノバルビタール, PHT: フェニトイン, VPA: バルプロ酸
【てんかん重積状態におけるフェノバルビタールの副作用】
50人の子供を対象とした後ろ向き研究:
最大血中濃度 70~344 mg/Lと報告
そのうち40人は, 高用量フェノバルビタール治療前に挿管されたが, 高い血中濃度にもかかわらず人工呼吸器を外すことができた.
成人を対象とした後ろ向き研究シリーズ:
フェノバルビタールの投与量は, 40~140 mg/kg/日で, 血中濃度は35.29~218.34 μg/mlに達した.
抄録では有意な有害事象は報告されていない
超難治性てんかん重積状態患者10人を対象とした後ろ向き症例シリーズ:
てんかん重積状態持続期間の中央値 17.5日 (範囲6~60日)
7人の患者に呼吸抑制と低血圧が認められた.
禁忌: 急性間欠性ポルフィリン症の既往歴やバルビツール酸に対する既知の過敏症
【てんかん重積状態の治療におけるフェノバルビタールの現在の位置付け】
米国, ドイツ, オーストリア, スイスのガイドライン:
レベチラセタム, バルプロ酸, フェニトイン/ホスフェニトインが利用できない場合の代替薬(15 mg/kg, 100 mg/分)
低所得国から中所得国では, 依然として広く使用されている.
【まとめ】
てんかん重積状態に効果的な薬剤の1つ
高用量でも安全性プロファイルが良好
鎮静, 呼吸抑制, 低血圧が最も一般的な副作用
臨床試験は少ないが, てんかん重積状態において, ロラゼパムと同等以上の効果があり, ベンゾジアゼピン耐性重積状態ではバルプロ酸よりも大幅に優れていることを示唆
[Trinka E. Phenobarbital in Status epilepticus – Rediscovery of an effective drug. Epilepsy Behav. 2023;141:109104. doi:10.1016/j.yebeh.2023.109104]
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