

自律神経発作を伴う自然終息性てんかん (self-limited epilepsy with autonomic seizures, SeLEAS)
以前は, Panayiotopoulos症候群や早期発症良性後頭葉てんかんと呼ばれた

SeLEASは, 以前はPanayiotopoulos 症候群や早期発症良性後頭葉てんかんとして知られた.
幼児期に発症
しばしば遷延する焦点自律神経発作を特徴
さまざまな部位の高振幅 (200μV超) な焦点性棘波, 睡眠で活性化
多くの患者で発作は少なく, 25%で発作は一回のみ
てんかんは自然終息性で, 通常は発症から数年以内に寛解
平均罹患期間は約3年
【疫学】
有病率
1〜14歳では小児てんかんの5%
3〜6歳では小児てんかんの13%
小児期の無熱性非けいれん性重積状態の原因で最多
発症年齢は通常3〜6 歳 (症例の70%)
1〜14歳の範囲
出生歴正常
熱性けいれんの既往が5%〜17%
頭囲や神経学的診察所見は正常
【経過】
発作は通常低頻度
約25%の小児で発作は一回のみ
大半は合計5回未満
発作は通常1〜2年以内に寛解
患者の約20%は他のSeLFE, 特にSeLECTS に進展
まれに, SeLEASからEE-SWASに進展
【発作】
意識減損を伴う, あるいは伴わない焦点自律神経発作は診断に必須
起始時の自律神経症状は多彩であるが, 最も多いのは嘔気, 顔面蒼白, 紅潮, 悪心, 倦怠感, 腹痛など
最も一般的な自律神経症状である嘔吐は小児の約75%
急性胃腸炎や片頭痛などの誤診の原因
その他の自律神経症状には, 瞳孔所見 (散瞳など), 体温, 循環呼吸 (呼吸, 顔面蒼白, チアノーゼ, 心拍)
まれに失神
発作はしばしば眼球や頭部の偏位, 全身の低緊張, 焦点間代 (片側間代) 発作, 焦点起始両側強直間代発作
意識は通常発作起始時には保持されるが, 発作の進行に伴い減損
発作の70%以上は睡眠中
発作はしばしば遷延し, 30分以上持続することがある
【脳波】
背景活動は正常
持続する焦点性の徐波化が認められる場合, 脳の構造的異常を検索
びまん性の徐波化は, 発作後以外ではみられない.
典型的には, 多焦点性の高電圧鋭波または棘徐波複合
発症時は, しばしば後頭領域にみられる.
異常所見の局在は顕著に変動することがあり, 中心側頭領域か前頭極領域に移動することがある.
全般性異常がみられることもある
脳波異常は断眠でも睡眠でも活性化
異常所見はしばしばより広範で, 両側同期性を示すこともある
閉眼 (中心視野の除去とfixation-off sensitivity) によって通常, 後方の異常が活性化されるが特徴的な所
見ではない.
発作が記録される場合, 発作起始は多彩であるが, 多くは後方に起始する.
発作パターンは, 小棘波や速波活動が混在する律動性徐波活動を示す

上: 起床時, 下: 睡眠時
睡眠時に広範に広がる
【画像】
繰り返す発作や, 非典型的な症状を示す症例ではMRIを検討
【遺伝学】
原因となる遺伝子バリアントは同定されていない.
稀にSCN1Aの病的バリアントを有する症例が報告
【鑑別診断】
脳の構造異常による焦点起始発作:
幼児期の側頭葉てんかんや構造的後頭葉てんかんでは,発作性嘔吐を伴うことがある.
発作が顕著な前頭頭頂弁蓋の症状を示す場合には, SeLECTSと診断する.
COVE:
自律神経症状とは対照的に, 顕著な視覚症状によって区別される.
片頭痛
https://www.ilae.org/files/dmfile/childhood-onset—japanese.pdf
【まとめ】
SeLEASは, Panayiotopoulos症候群や早期発症良性後頭葉てんかんとして知られた.
3-6歳に好発
しばしば遷延する焦点自律神経発作を特徴.
最も多いのは嘔気, 顔面蒼白, 紅潮, 悪心, 倦怠感, 腹痛
IEDs:
典型的には, 多焦点性の高電圧鋭波または棘徐波複合
発症時は, しばしば後頭領域にみられる.
異常所見の局在は顕著に変動することがあり, 中心側頭領域か前頭極領域に移動することがある.
全般性異常がみられることもある
脳波異常は, 断眠でも睡眠でも活性化
発作時脳波:
発作起始は多彩であるが, 多くは後方に起始する.
発作パターンは, 小棘波や速波活動が混在する律動性徐波活動を示す
25%で発作は一回のみ, 通常は発症から数年以内に寛解
小児期の無熱性非けいれん性重積状態の原因で最多
中心側頭部棘波を示す自然終息性てんかん(self-limited epilepsy with centrotemporal spikes, SeLECTS)
以前は良性ローランドてんかん, または中心側頭部棘波を示す良性てんかん

自然終息性てんかん症候群
学童期早期の小児に発症
発作は短時間であることが多い
典型的には咽頭・舌および片側顔面下部の焦点間代または強直活動を伴う
眠気や睡眠で活性化される高振幅な中心側頭部の鋭徐波複合
発作は思春期までに停止する.
【疫学】
SeLECTSは最も頻度の高いSeLFE
小児てんかん全体の約6〜7%
発症年齢は90%の症例で通常4〜10歳 (範囲は 3-14 歳), ピークは約7歳
やや男性優位 (60%)
熱性けいれんの既往が5〜15%
まれにSeLEASの既往
SeLECTSは神経損傷や知的障害の既往のある小児にみられることがあるが, これらは偶発的なもので原因ではないと考えられる.
てんかん発症前に注意欠如・多動症や, 主に言語や実行機能に関連した特異的認知機能障害が認められることがある
【経過】
発作は通常, 思春期までに寛解
時に18歳まで続くこともある
てんかんの活動期には, まれに行動障害や神経心理学的障害, 特に言語や実行機能の障害が出現したり悪化したりすることがある
これらの障害は年齢とともに改善または消失することが多い
成人での社会的転帰は非常に良好
当初発作コントロールが困難な症例でも, 発作寛解の予後は極めて良好
【発作】
特徴的な前頭頭頂弁蓋の症状を呈する焦点起始発作, あるいは夜間の両側強直間代性発作は診断に必須
発作は短く通常2-3分未満で, 大抵は回数も少ない (大半の小児は生涯の発作が10回未満)
数日から数週の間に頻回の発作がみられるが, その後は次の発作まで数か月かかるなど散発的に起こる
焦点起始発作の特徴的症候:
(i) 舌, 口唇, 歯肉および頬内側の一側性のしびれまたは知覚異常を伴う体性感覚症状
(ii) 口顔面の運動徴候. 具体的には一側の顔面, 口, 舌の強直あるいは間代収縮と, その後一側顔面を巻き込む
(iii) 発語停止. 小児は話すことが困難または不可能であるが (構音障害または構語障害), 言語理解は可能
(iv) 流涎. 特徴的な発作症状だが唾液分泌量の増加, 嚥下障害またはそれら両方によるものかは不明確
症例によっては, 睡眠中の焦点起始発作が, 急速に同側上肢の強直間代運動, 同側の片側間代発作あるいは焦点起始両側強直間代発作へと進展する
発作後にトッド麻痺が生じることがある
夜間の発作では, 最初の焦点要素が目撃されいことは多い.
発作は80〜90%の患者で睡眠中に起こり, 覚醒中のみは小児の20%未満である
SeLECTSに伴う発作では, 認知 (幻味など), 感情 (恐怖など) および自律神経症状は認めない.
てんかん重積状態は稀, みられた場合は診断の見直しをすべき
非定型欠神発作, 焦点脱力発作, バランスを崩したり転倒を伴うような陰性ミオクローヌスを呈する焦点運動発作の発生は, EE-SWASへの進展を示唆し, 認知障害や退行の兆候を検索する必要がある

【脳波】
背景活動は通常正常
中心側頭部棘波を伴わない持続的な焦点性の徐波化やびまん性の徐波化が記録される場合は, 他のてんかん症候群や構造病変を考慮する必要がある
眠気や睡眠で活性化する高振幅 (頂底間200μV超) な中心側頭部鋭徐波複合は診断に必須
三相性で高振幅 (100-300μV )な鋭波で, 横方向の双極子 (前頭陽性, 側頭頭頂陰性)を持ち, しばしば高振幅徐波が続く
異常は単発あるいは2-3連発して出現
時に焦点性の律動的な徐波活動が棘波と同じ領域に観察されることがある.
異常は片側のことも両側に独立して出現することもある
中心側頭領域以外 (正中線, 頭頂, 前頭, 後頭) にみられることがある
睡眠中の持続性棘徐波パターンがみられた場合, その児に進行性の言語や認知の障害や退行があるか評価する必要がある.
発達の停滞や退行があった場合, この脳波パターンはEE-SWAS の診断にのみつながる
眠気や睡眠でのてんかん様活動の頻度の顕著な増加は典型的
鋭波や棘徐波複合の様な脳波パターンがより広範な領域に広がったり, 両側同期性に出現したりなど, 脳波パターンが変化することもある
10〜20%の小児では, 中心側頭部鋭波や棘徐波複合は指やつま先の感覚刺激で活性化されることがある
発作時は, 背景脳波振幅が短時間低下した後, 一側の中心側頭領域優位のびまん性徐波性異常が振幅を増し, 高振幅徐波となり, その後通常の発作間欠期脳波に戻る所見が認められうる
焦点起始両側強直間代発作では, 発作性律動は (全般とは対照的に) 両側同期性の鋭あるいは棘徐波活動に至ると考えられる
【画像】
神経画像は正常であるか, 非特異的な所見を認めることはある.
海馬の非対称性, 白質異常, 側脳室拡大といった非特異的なMRI所見では, SeLECTSの診断を除外すべきではない
【遺伝学】
てんかんや熱性けいれんの家族歴陽性率や, SeLECTS患者の血縁者で年齢依存的な焦点性脳波異常の罹患率が高い
兄弟姉妹は, 年齢依存的に常染色体顕性形式で臨床発作を伴わない中心側頭部の脳波特性を示すことがある
病的遺伝子バリアントは同定されていない
【鑑別診断】
・DEE-SWASあるいはEE-SWAS:
DEE-SWASの患者は類似した発作を呈することがあるが, 認知や言語の退行によって鑑別可能
SeLECTSの小児では, まれに本症候群に進展することがある
・他のSeLFE:
様々なSeLFEで脳波異常の形態は重複. それらの発作局在は年齢とともに変化しうる.
顕著な自律神経症状, 特に発作性嘔吐を伴う遷延性焦点非運動発作を呈する患者では, SeLEASを考慮
・ Fragile X:
脳波変化はSeLECTS でみられるものと類似する可能性がある. 知的障害を持つ男性.
発作は焦点意識減損発作が最も多く, 意識減損を伴わない焦点運動発作や焦点起始両側強直間代発作の可能性は低い
【まとめ】
自然終息性てんかん症候群. 最も頻度の高いSeLFE
発作は短時間であることが多い
典型的には咽頭・舌および片側顔面下部の焦点間代または強直活動を伴う
眠気や睡眠で活性化される高振幅な中心側頭部の鋭徐波複合
発作は思春期までに停止する.
通常4〜10歳
熱性けいれんの既往が5〜15%
焦点起始発作の特徴的症候:
(i) 舌, 口唇, 歯肉および頬内側の一側性のしびれまたは知覚異常を伴う体性感覚症状
(ii) 口顔面の運動徴候
(iii) 発語停止
(iv) 流涎
非定型欠神発作, 焦点脱力発作, 陰性ミオクローヌスの発生は, EE-SWASへの進展を示唆
眠気や睡眠で活性化する高振幅 (頂底間200μV超) な中心側頭部鋭徐波複合は診断に必須
https://www.ilae.org/files/dmfile/childhood-onset—japanese.pdf
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