焦点切除術後の高次脳機能はどうなる?

やや古いレビューからですが, 焦点切除による影響を調べてみました.

Prediction of neuropsychological outcome after resection of temporal and extratemporal seizure foci: review, 2012

左前方側頭葉切除術 (ATR) 後
言語性記憶低下は, 左ATR後に最も頻繁に見られる

海馬と海馬傍回の一部は, 近時記憶に関する言語情報の符号化と検索に重要​​である

左ATR後の22-63%は, 言語性記憶が低下するが, 約7%は改善する

右前方側頭葉切除術 (ATR) 後

右ATR後の10-34%は, 言語性記憶が改善

右ATR後の約6-32%, 5人に1人は顔の記憶能力が大幅に低下し, 4人に1人は空間位置の記憶能力が低下

さらに嗅覚の識別, 認識記憶能力を低下させる

ATR後の記憶機能低下の予測因子

左: 言語性記憶低下の予測因子右: 視覚記憶力低下の予測因子
言語優位半球, 左ATR非言語優位半球, 右 ATR
ATR前の左側頭葉fMRI活性化の増加ATR前の右側頭葉fMRI活性化の増加
海馬硬化症の欠如より大きな右海馬
術前の言語性記憶が良好術前の視覚記憶が良好
右側注射による術前Wada言語性記憶が良好左側注射による術前Wada視覚記憶は良好
PETで非対称性なし発作発症年齢が遅い
発作発症年齢が遅い術後の発作コントロール不良
術後の発作コントロール不良より大きな右外側大脳新皮質と内側側頭葉切除
より広範囲の切除切除組織の病理(非典型な硬化症)
男性
高齢
術前の大うつ病

優位半球ATR後の29-54%が, 言葉の検索困難を示す

意味記憶を保存する領域の 1 つである, 外側側頭葉の広範な切除でリスクが高くなる

術後に最も失われやすいのは, 人生の後期で獲得した意味記憶

左ATR前後の呼称能力の低下 (発作開始年齢別)

発作発症年齢が高いほど, 左ATR後の呼称能力は低下

命名能力が大幅に低下した割合

左: 左ATR後, 右: 右ATR後

30歳以降に発作を発症した患者の60%以上が, 左ATR後にnaming ability低下

右ATR後にnaming abilityが低下した患者は5%未満

15歳以上での発作発症の場合は, 言葉の検索困難を経験する可能性が高い

発作開始年齢が若い場合は, 呼称能力がすでに低下し術後に失うものが少ないか, 脳機能が再構築された可能性がある

発作発症の年齢が高いことが, 手術後の機能低下のリスクを高める

前頭葉切除後の実行機能

一次運動野, 補足運動野, 前頭眼野, ブローカ野, 背外側前頭前野, 眼窩前頭皮質, 弁蓋部は, 特定の神経学的欠損が生じる

前頭葉切除後には, 注意力, マルチタスク, 流暢性, response inhibition, 概念形成, 問題解決の低下を認めることがある.

左背外側前頭葉切除は, 術後の音韻流暢性障害と関連

右前頭葉切除は, 術後の視覚流暢性障害と関連する. 特に切除が広範囲で, 前頭極, 眼窩前頭皮質を含む場合に特に顕著である.

背外側前頭前野を含む切除は, 作業記憶およびマルチタスク障害につながることもある

前頭前野, 補足運動野の左側切除は, 一過性の表現性失語症と関連

いずれかの半球での大きな切除も, 脱抑制, 固執行動の一因となる.

眼窩前頭皮質の切除後には, 嗅覚識別, 嗅覚記憶障害が発生する

右後下前頭葉の切除が一過性の半側空間無視につながる

前頭葉切除後の実行機能障害の不良因子としては,

手術前の実行機能が正常, 手術後の発作継続, 手術前のうつなど

後頭葉および頭頂葉切除後の障害

後頭葉てんかんの患者は, 手術前も, 視覚失認, 幻視, 錯覚, 対側視野欠損などの視覚症状を示すことがよくある

後頭葉切除後の視覚認知障害は通常, 手術中に視放線や, 視覚処理領域が損傷されることに起因

後頭葉切除後に, 患者の50%に新たな視覚障害が見られ, 17%に四半盲または半盲

頭頂葉てんかんは, 視覚知覚, 空間構成障害, 失認, 手術側と反対側の触覚識別能力の低下, 左右方向の混乱, 半側無視, 視覚錯覚と関連する.

手術は, 少数の患者において, 失名, 失書, 失読, 失行, 失算, 顔認識障害を引き起こすことがある

ある研究では, 後側頭-後頭-頭頂領域を切除すると, 術後に非言語性IQが低下したが言語性IQは低下しなかった. 非言語能力が視覚処理に大きく依存しているためである.

[Dulay MF, Busch RM. Prediction of neuropsychological outcome after resection of temporal and extratemporal seizure foci. Neurosurg Focus. 2012 Mar;32(3):E4. doi: 10.3171/2012.1.FOCUS11340. PMID: 22380858.]

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