Rasmussen症候群は主に小児で認めますが, 成人発症例を経験したことがありましたのでまとめました.
Rasmussen Encephalitis: An Update. Semin Neurol. 2020

CD8陽性T細胞, ミクログリア活性化, B細胞, サイトカインが原因になるようです.
よってこれらを抑制することが治療戦略となります.

ラスムッセン脳炎例: 右大脳半球が次第に萎縮していく.
A: FLAIR, 発症6週間後, 右下前頭葉に高信号.
B: FDG-PET, 発症5週間後, epilepsia partialis continuaにより代謝亢進.
C, E: T1, 発症4週間以内.
D, F: 発症8週間後.
C, D: シルビウス裂周囲の萎縮.
E, F: 内側前頭葉萎縮.
ILAE診断基準


Rasmussen (ラスムッセン) 症候群 (以前はRasmussen脳炎と呼ばれていた)
小児, 青年, 若年成人
進行性の大脳半球萎縮
まれな疾患で, 罹患率は1000万人あたり1.7-2.4人
発症年齢は1-10歳 (中央値6歳)
症例の約10%は青年期あるいは成人期に発症する遅発型である
青年期, 成人期発症例では, 小児期発症例よりもRSの進行が遅く, 最終的な障害はより軽度となる可能性が
ある.
原因は不明, 原因抗体も同定されていない
脳脊髄液は正常所見を示すこともあるが, 軽度細胞増多, 軽度蛋白上昇, オリゴクローナルバンドを示すこもある.
【発作】
焦点起始発作, 通常は運動発作で, 持続性部分てんかん (epilepsia partialis continua) を起こす.
頻度と重症度は経時的に悪化する.
進行性の片麻痺が生じる.
【診断】
診断は, 特徴的な臨床像と画像所見に基づいて行われる.
脳生検は必要ない場合もあるが, 片側半球に限局した多巣性の皮質炎症, 神経細胞脱落, グリオーシスを認める.
半球性萎縮の原因は不明だが, この病理自体がRSの脳波臨床症候群の病因であるため, RSは病因特異的てんかん症候群と考えられる.
【経過】
前駆期 (数か月から数年続くが, 低年齢児ではもっと短い): 発作頻度が少なく, 片麻痺の程度が軽い
急性期 (数か月から数年続くが, 低年齢児ではもっと短い): 発作頻度が次第に増加, 時に持続性部分てんかんを呈し, 片麻痺, 半盲, 認知機能, 言語 (後者は優位半球の場合) の障害が進行する
慢性期: 永続的で固定した片麻痺とその他の神経学的障害を伴い, 発作が持続する (ただし急性期より頻度は少ない)
https://www.ilae.org/files/dmfile/various-ages—japanese.pdf
A systematic review. Rev Neurol (Paris). 2022

診断基準案
焦点発作重積であるepilepsia partialis continuaと片側進行性大脳皮質萎縮が鍵になりそうです.
明確に関連している自己抗体はまだないようです.

治療:
前駆期, 急性期, 残存期で発作頻度, 神経機能, 大脳半球萎縮が異なる.
発症年齢, 進行スピード, 神経学的異常の程度で外科適応が異なる.
【大脳半球離断術 (hemispherotomy)】
発作を抑制し神経学的悪化を防ぐ.
障害を受けた大脳半球の機能的切断を得ることを目的.
早期手術により, 反対側の認知機能低下を防ぐことができる.
優位半球, 進行が遅い, 運動機能障害がない, 発症が遅い患者ははばかれる.
同名半盲と片麻痺は避けられない.
巧緻運動障害は回復しないが, 自立歩行の回復は期待できる.
10歳までに手術を行われた場合, 言語能力は反対側の半球によって部分的にサポートされる.
思春期または成人発症型では, より局所的な切除により, 一部の患者では発作が改善する可能性がある.

【第一選択治療】
発作に対する有効率は, コルチコステロイドがIVIgと血漿交換よりも高い.
しかし, コルチコステロイドの効果はほとんどが一時的.
IVIg, 血漿交換が有益な効果が得られることもある.
3つの治療法の効果を比較した前向き比較研究はまだない.
【第二選択治療】
データは限られ比較研究はまだない.
シクロホスファミドは効果が限られる.
タクロリムスは発作に対する効果は限られているが, 萎縮/運動障害の進行を遅らせる可能性がある.
アザチオプリンでは約70%の発作抑制あり.
アザチオプリンは神経学的機能低下に対してほとんど効果がなかった.
リツキシマブでは約 60%の発作抑制あり.
ミコフェノール酸モフェチルはアザチオプリンよりも忍容性がよい場合がある.
[Cay-Martinez KC, Hickman RA, McKhann Ii GM, Provenzano FA, Sands TT. Rasmussen Encephalitis: An Update. Semin Neurol. 2020;40(2):201-210. doi:10.1055/s-0040-1708504]
[Lagarde S, Boucraut J, Bartolomei F. Medical treatment of Rasmussen’s Encephalitis: A systematic review. Rev Neurol (Paris). 2022;178(7):675-691. doi:10.1016/j.neurol.2022.01.007]
【まとめ】
成人例でも, 焦点発作重積 (epilepsia partialis continua), 大脳半球萎縮進行例では, ラスムッセン症候群を想起する.
特異的な自己抗体はまだ発見されていない.
小児では大脳半球離断術の適応を考慮する. 成人でも焦点切除術は適応になるかもしれない.
第二選択薬として, アザチオプリン, リツキシマブの有効性データが多い.
タクロリムスは発作が少ない場合は良い選択肢かもしれない.
なぜ半球性なのかは, なぞです.
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