後頭葉てんかん (症候性・COVE・POLE)

後頭葉発作の主な症状は視覚と眼球運動であるが複雑であり, 黒内障, 片頭痛の前兆との鑑別が重要である.

Occipital lobe seizures and epilepsies. J Clin Neurophysiol. 2012

一次視覚野】
焦点感覚視覚発作

陽性視覚現象 (典型的には円形や閃光などの多色図形) の場合もあれば, 視野の一部消失や失明 (失認) などの陰性現象の場合もある.

【Color, Shape, and Size】

主に多色で円形.

正方形, 三角形, 長方形, 星形 (点滅または明滅する無彩色の光), 陰影, 非円形のパターンはまれ.

発作の進行とともに, 数, 大きさが増加.

Neuro-ophthalmology nuggets: Occipital Epilepsy
Neuro-ophthalmology

Location】

たいていは片側耳側の視野領域.

10~30%は, 中心もしくは明らかな局在がない.

Movement】

その視覚領域内で位置と輝度が変化するだけで, 特別な動きを伴わずに増殖し大きくなる.

ちらつきや点滅がよくみられる.

視界中心や反対側への移動はあまりみられない.

まれに, 回転, 不規則, 接近, 遠ざかる視覚症状がみられる.

Laterallization】

片側性視覚発作はてんかん原性焦点の対側である。

別の方向に水平に移動する場合は, 片側性視覚発作はてんかん焦点に対して同側である.

Duration】

視覚発作は通常短時間 (数秒から1-3分) であり, 片頭痛の前兆は5-15分.

発作後症状は主に頭痛であり, 片頭痛と区別できないことが50%の症例にある.

発作症状の進展】
幻視発作は, 隣接する他の後頭葉, 後頭葉外の発作症状に進行することが多い.
発作失明 (ictal amaurosis) は, 幻視発作に続いて認めることもあるが, 初期症状として起こることもある.

発作性半盲は, 症候性後頭葉てんかんの3分の1, 特発性後頭葉てんかんの3分の2.

強直性眼球偏位は, 後頭葉てんかんの非視覚的症状として最もよくみられる (40~50%).
反復する瞬目は, 幻視発作後の意識減損の段階で起こることが多く, 全般化する予兆にもなる.

視野の一部で陽性視覚現象が起こると, 発作中にその方向を見ることがある.

Extra-striate cortex (一次視覚野より外)

焦点認知発作

人物, 動物, 情景の絵など, 複雑な形の幻視を伴う

後頭頭頂接合部】
てんかん性眼振がみられることがある.

発作の反対側に速い眼振がみられ, 同側半球に遅い眼振で戻る.

眼球運動は通常, 意識が保たれたまま起こり, 頭部や体幹の運動を伴うこともある.

眼瞼下垂や強制閉眼を伴うこともある.

Inferior to the calcarine fissure (鳥距溝より下)

内側側頭葉に広がる傾向があり, 意識減損発作を生じる.

Superior to the calcarine fissure (鳥距溝より上)
頭頂葉, 前頭葉に広がり, 感覚発作, 運動発作を起こす.

OCCIPITAL LOBE SEIZURE
The International League Against Epilepsy (ILAE) Diagnostic Manual's goal is to assist clinicians who look after people ...

[Adcock JE, Panayiotopoulos CP. Occipital lobe seizures and epilepsies. J Clin Neurophysiol. 2012;29(5):397-407. doi:10.1097/WNP.0b013e31826c98fe]

Occipital lobe seizures and epilepsies. J Clin Neurophysiol. 2012

特発性後頭葉てんかんと症候性後頭葉てんかんにおけるIEDsの比較

症候性後頭葉てんかんのIEDsは, 厳格に後頭部にほとんど認めない.

ほとんどは後側頭部に限局する.

後頭部に認めるのは1/5以下である.

特発性後頭葉てんかんでは, 後頭部と後頭部外スパイクの頻度が高く, 多形なスパイクの頻度は低い.

光過敏性後頭葉てんかんでは, spike, polyspikeは後頭部に明らかであり, 後頭部に強調される全般性spike, polyspikeもみとめる.

光線過敏症は両群の3分の1にみられる.

発作時脳波
発作時脳波は通常, 速波もしくはスパイクが後頭部に局在する.

速いリズミカルパターンの前に, 短時間の後頭部の平坦化がみられることがある.

律動性発作時脳波が片側に限局することは多くない.

発作時脳波は, 両側後頭部から側頭部に広がることが多い.

症候性後頭葉てんかんでは, 後頭部に限局した発作時脳波ではなく, より広範に認めることが多い
光過敏性後頭葉てんかんでは, 側頭部への伝播が, 数分以上かけ非常に遅いこともある.

発作が長引いたり, 全般化しない限り, 発作後の局在性緩徐活動はみられない.

単純な後頭葉発作の3分の1では, 有意な脳波変化を示さないこともある.

[Adcock JE, Panayiotopoulos CP. Occipital lobe seizures and epilepsies. J Clin Neurophysiol. 2012;29(5):397-407. doi:10.1097/WNP.0b013e31826c98fe]

小児期の自然終息性焦点てんかん症候群 (SeLFE)

後頭葉に関連するCOVEとPOLE

小児後頭視覚てんかん (COVE)

以前は, 遅発性良性後頭葉てんかん, Gastaut症候群, 特発性小児後頭葉てんかん (Gastaut型)

大半の患者では, 小児期後半に始まり自然終息性である.

発達が正常な小児に発症し, 覚醒中頻繁に短い発作を起こす.

意識変化を伴わない視覚現象を伴う.

しばしば片頭痛の特徴を持つ頭痛が続く.

しばしば発症後2-7年以内に発作は寛解する

【臨床的背景】

発症年齢は典型的には 8-9歳で, 1歳から19歳の範囲

患者の発達と認知機能は正常であるが, 軽度の認知機能障害は報告されている.

【経過】

思春期までに50〜80%の患者で寛解

発作はしばしばASM反応性である.

【発作】
覚醒中の焦点感覚視覚発作は診断に必須

発作は突然発症し, 短く (通常数秒で, 多くは3分未満, まれに20分程持まで持続することあり)

典型的には周辺視野の小さな多色円と表現される要素性視覚現象が生じ, 次第に視野を広く巻き込み, 水平に対側へ移動する. この後, 眼球偏位や頭部回旋 (発作起始半球と同側方向)を伴うことがある.
後頭葉起始に一致する他の症状として, 発作性盲, 複雑な幻視や錯視 (反復視, 小視, 変視など), 眼窩痛, 眼瞼をパチパチさせる動き, 反復閉眼が起こることがある

発作が後頭葉外に広がり, 半身の異常感覚, 意識減損 (14%), 片側間代発作 (43%), あるいは焦点起始両強直間代発作(13%) を呈することがある

一部の患者では, 焦点感覚発作の発症後, 定型欠神発作が生ずることが稀にある

片頭痛様の特徴を示す発作性, 発作後頭痛は多く (患者の50%), 吐気や嘔吐を伴うこともある.

【脳波】
背景活動は正常

典型的には発作間欠期の後頭部鋭波, 棘徐波複合がみられるが, 睡眠時にのみ出現することもある.

症例の20%では中心側頭部や前頭部, 全般性異常も認める

fixation-off sensitivity (中心視野の除去に伴いてんかん様異常が促進されること) が患者の20%〜90%にみられるが,本症候群に特徴的なものではない

脳波異常は, 断眠や睡眠で増強される

COVEはまれにEE-SWASに進展することがある.

認知機能の退行が生ずる場合には, 睡眠時脳波検査を行う必要がある.

発作起始時には, 通常の背景にある後頭の棘波あるいは棘徐波複合が減少し, 低振幅棘波を伴う一側後頭の速波律動が突然出現する.

眼球間代発作あるいは発作性盲が生じている間は, より緩徐な棘徐波異常がみられる

【遺伝】
遺伝子は同定されていないため, 遺伝学的検査は不要である.

病因は素因性で, 複合・多遺伝子遺伝が推定

熱性けいれんやてんかんの家族歴が症例の最大1/3

片頭痛の家族歴が症例の9〜16%で報告されている

【鑑別】
・視覚前兆を伴う片頭痛

前兆の発現がより緩やかで持続が長いことや, 視覚現象の特徴 (大きさが変化した水平方向に移動したりする色のついた円や閃光とは異なり, 線状やジグザグ, 閃輝暗点の現象) により鑑別できる.

光過敏後頭葉てんかん (POLE)

小児期と青年期に発症するまれなてんかん症候群

発達や神経学的診察, 知能が正常

後頭葉の関与する光誘発性焦点起始発作を特徴とする

発作起始時には, 患者は意識を保ったまま不随意な頭部偏向を伴う視覚前兆を経験する.

予後はさまざま

【臨床的背景】
発症年齢は1〜50歳

4〜17歳 (平均11歳) で最も多く, 稀に成人発症例も報告

女性が圧倒的に多い

【経過】
予後はさまざま

発作が数回のみの患者もいれば, 時間とともに発作が寛解する患者や, 光誘発性発作が持続する患者がいる

【発作】
光で誘発される焦点感覚視覚発作 (例えば, 太陽光のちらつきにより誘発される) は診断に必須

幼児では前兆を説明するのは困難かもしれないが, 見たものを絵に描けることもある

視覚症状には, 光や色のついた斑点, 有形性幻視, 視野を横切って移動する視覚のぼやけ, 喪失など

視覚現象を追うような感覚で頭部や眼球の偏向を伴うことがある.

発作はビデオゲームや他の光刺激で誘発されることがあり, 過去にはしばしば周波数出力の低い古いアナログテレビで誘発されていた

発作は通常短い (3分未満) が, 遷延する発作が起こることもある.

発作は, 頭部感覚 (頭痛を含む), 自律神経性上腹部感覚や嘔吐, 意識減損発作や焦点起始両側強直間代発作へと進展することがある
まれに, 発作は光誘発ではなく睡眠中に起こることがある.

視覚誘発なく焦点感覚視覚後頭発作を起こす患者もいる

本症候群とIGEとの重複はよく知られている.

このためミオクロニー発作, 欠神発作, 全般強直間代発作がみられることもある.

発作頻度はさまざまである.

【脳波】
背景脳波は正常

発作間欠期は後頭部に棘波や棘徐波異常がみられることがある.

全般性棘徐波複合や中心側頭棘波が併存することがある.

閉眼や間欠的光刺激で後頭部の棘徐波や多棘徐波が促進される

光刺激で全般性棘徐波または多棘徐波(後方優位)複合が出現することもある

てんかん様活動は断眠や睡眠で誘発される.

発作は視覚現象を含む視野や, 頭部や眼球偏位の方向とは対側の後頭葉に起始する

後頭部の発作パターンは, 同側側頭葉や対側後頭葉に広がることがある.
患者の1/3で家族歴が報告
複数の世代に罹患者がいる家系も少数報告されている
IGEやSeLECTSと相当重複がある
知られている遺伝子はない.

【鑑別】
・眼瞼ミオクロニーを伴うてんかん (EEM)

顕著な眼瞼ミオクロニーや, 幻視や頭部・眼球偏向がないことで鑑別

・SeLEAS

発作起始時に顕著な嘔気・嘔吐や他の自律神経症状がみられることで鑑別

・COVE

光刺激で誘発されない視覚症状を伴う焦点感覚発作が頻発することで区別される.

・セロイドリポフスチン症2型 (CLN2)

低年齢児 (5歳未満) に発症. 脳波では低周波数 (1-3Hz) で光突発反応を示すことが特徴的

小児では, 認知機能退行, 失調, 視力障害が進行

・ラフォラ病

焦点感覚視覚発作を呈するが, 生活に支障をきたすミオクローヌス, 認知機能障害, 失調を伴う進行性ミオクローヌスてんかんを伴う

https://www.ilae.org/files/dmfile/childhood-onset—japanese.pdf

【まとめ】

後頭葉てんかんは発作後に頭痛を伴うこともあり, 片頭痛との鑑別が困難になる.

一次視覚野からの発作は, 多色で円形, 増殖しながら大きくなることが特徴とされるため, 片頭痛の視覚前兆とはやや異なる.

症候性後頭葉てんかんの場合は, IEDsが後頭部ではなく, 後側頭部に限局することが多く注意が必要である.

小児期から青年期に発症した場合は, COVEとPOLEも想起する.

COVE (小児後頭視覚てんかん):

8-9歳に好発

光刺激で誘発されない視覚症状を伴う焦点感覚発作が頻発

覚醒中頻繁に短い発作を起こす.

周辺視野の小さな多色円, 次第に視野を広く巻き込み, 水平に対側へ移動する

他の症状として, 発作性盲, 複雑な幻視や錯視 (反復視, 小視, 変視など), 眼窩痛, 眼瞼をパチパチさせる動き, 反復閉眼が起こることがある

しばしば片頭痛の特徴を持つ頭痛が続く

POLE (光過敏後頭葉てんかん):

4-17歳に好発

光で誘発される焦点感覚視覚発作 (例えば, 太陽光のちらつきにより誘発される) は診断に必須

視覚症状には, 光や色のついた斑点, 有形性幻視, 視野を横切って移動する視覚のぼやけ, 喪失など

視覚現象を追うような感覚で頭部や眼球の偏向を伴うことがある.

意識を保ったまま不随意な頭部偏向を伴う視覚前兆

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SeLEAS (自律神経発作自然終息性) とPanayiotopoulos症候群の記事はこちら

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